本物の友達の基準って何?!
教室に戻ってきてからいろいろ考える。
特に、梨乃ちゃんの様子がいつもとは違っていたことについて。
多分、梨乃ちゃんが静葉ちゃんに執着しているだけなのだろうが。
それでも、フワフワしてると思ってた梨乃ちゃんが、黒い笑みを浮かべていたのには驚いた。
あれが、裏の顔、なのだろう。
…静葉ちゃんにも、そんな裏の顔があったりするのかな…。
なんて考えて、首を横に振る。
別に、裏の顔があったとしても、いいか。
これから徐々に仲良くなれば、そういう裏だって見せてくれるだろうし。
「美澄ちゃん授業中ぼーっとしてたでしょ〜?
ほら、帰ろう!」
いつの間にか放課後になっていたようで、静葉ちゃんが声をかけてくれる。
席を立ち上がり静葉ちゃんの隣に並んで歩き出す。
「今日は私の家おいでよー。」
「え、静葉ちゃんの家?いいの?」
「いいよー。」
そう、少しずつ仲良くなればいいんだ。
私は静葉ちゃんのお言葉に甘えて、静葉ちゃんの家にお邪魔することにした。
静葉ちゃんの家は、いつもの分かれ道を曲がって少し行ったところの左手にある一軒家だった。
家に上がるも親御さんはいない様子で、静葉ちゃんの部屋まで直行した。
静葉ちゃんらしく、明るく可愛らしい部屋で、ピンク色や黄色系の家具や置物が多かった。
「可愛い部屋だね。」
と呟くと、静葉ちゃんは嬉しそうに笑って、
「そうでしょ?あ、飲み物ここに置いとくね。」
と、いつの間にやら持っていたお盆に乗ってるコップを、部屋の中央に置かれたテーブルの上に置いた。
ココアのような甘い香りが部屋中に広がる。
静葉ちゃんはテーブルの前に腰掛けた。
私はしばらく静葉ちゃんの部屋を見渡した後、静葉ちゃんの近くに座ろうとテーブルに近付いた。
ふと視界の端に、タンスの上に飾られた可愛い写真立てがちらつく。
パッとそちらに視線を移し、写真立てに近寄る。
写真に写る人物がハッキリ見えたあたりで、さっきまで私の行動を見守っていた静葉ちゃんが慌てて立ち上がり、
タンスの上の写真立てを取り上げて私に見えないように隠した。
いきなり取り乱した静葉ちゃんに驚き一歩退くと、怖い顔をしていた静葉ちゃんはハッとして引きつった笑みを浮かべた。
「これは、見ないで…。」
静葉ちゃんはそう言うと、写真を机の引き出しにしまう。
写真については気になったけど、いつもとは違う静葉ちゃんを無理に問い詰めるわけにもいかず、何も言えなかった。
それでもすごく気になった。
だって、写真に写っていたのは、梨乃ちゃんでも葵ちゃんでもなかったから。
この部屋に唯一飾られていた写真の中の人物は、静葉ちゃんと他の誰か。
他にも、親しい人物がいるということなのだろうか。
「あの、そこに写ってたのって、誰?」
考えてるうちについ出てしまった一言。
静葉ちゃんは驚いた様子で、でも悲しそうに顔を歪めた。
「…喧嘩した“唯一”の“親友”。
まだ仲直りしてないんだけど…。」
泣きそうな顔をした静葉ちゃんは、テーブルの前に座った。
私もテーブルを挟んだ静葉ちゃんの目の前に座る。
気まずい空気が流れて、何か話す話題を探して気を紛らわす。
でも、一瞬見えてしまった。
写真をしまった引き出しを、恨めしそうな瞳で見る静葉ちゃんが。
ゾクッと背筋の凍るような、悪女の笑みを浮かべた静葉ちゃんが。
でも、ほんの一瞬だったから、私は気のせいだと自分に言い聞かせた。