本物の友達の基準って何?!
陽翔くんは少し考えた後、
「俺はよく知らないけど、平内ってさ、去年の中頃まではよく、木村とつるんでたんだよね。
あいつ、木村のことかなり気に入ってたし。」
「木村って、木村このは?」
「うん、そう。」
いきなり真剣な顔つきになった上に淡々とした口調で話す。
いつもとは違うオーラを纏った陽翔くんに戸惑いつつも、聞きたいことはしっかり聞く。
「でもね、なんかある日いきなり木村のこと無視しだして、そっから全然つるまなくなったっけなぁ。
いつも通りの喧嘩かと思ったんだけど、なんか違うんだよ。」
“ある日”のことを思い出しながら語る陽翔くんを見て考える。
多分、陽翔くんみたいなクラスメートに聞いたところで、得られる情報は同じだろう。
恐らく、梨乃ちゃんや葵ちゃんなど、静葉ちゃんと特別仲の良い、静葉ちゃんが信頼している人たちしか詳しい事情は知らないだろう。
けれど、きっと教えてくれない。
ふぅっと軽く一息ついてから、
「そうなんだ、ありがとう。」
と陽翔くんにお礼を言って、前を向いた。
葵ちゃんはまだ来ていなかった。
少しすると、梨乃ちゃんと共に葵ちゃんがやって来た。
「美澄ちゃんおはよう。」
「あ、おはよ、葵ちゃん。」
木村このはについて、葵ちゃんに聞いても大丈夫かと考えていたから、挨拶をされてちょっと驚いた。
葵ちゃんから視線を逸らし、どうしようかと考える。
昨日までは聞く気満々だった。
現に陽翔くんには聞いてるしね。
けれどさっき、葵ちゃんの隣にいた梨乃ちゃんが不敵な笑みを浮かべてきたせいで、聞きにくくなった。
梨乃ちゃんの不敵な笑みが、少し怖かったから。
ため息をついて葵ちゃんのいる前を見ると、葵ちゃんは首を傾げてこちらを見ていた。
驚いて「わっ」と声をあげると、葵ちゃんはジッと私の目を見る。
「何?」
葵ちゃんは私の目を見たまま、少し冷たい口調で聞いてきた。
私はすっと葵ちゃんから視線を逸らし、目を泳がせる。
「なんでもない」なんて、誤魔化せるわけないのは明確だった。
「あの、その…。」
言おうと前を向くも、視界の端に写る梨乃ちゃんの視線が気になり下を向いてしまう。
梨乃ちゃんもジッと私を見ていた。
冷たい視線にゾクッと背筋が凍る。
そんな梨乃ちゃんに気付いてか、私が言葉を濁しているからか、葵ちゃんは私の顔をより一層真剣な目で見た後、私にしか聞こえない声で、
「放課後、残って。」
と囁いて、私の机を指でトントンとつついた。
「美澄ちゃん、何話してるの?」
私が返事をする間もなく、今度は静葉ちゃんに話しかけられる。
そして思い出した。
今日は数学があって、きっと放課後、いつものように先生に質問しに行くはめになるであろうことに。
パッと葵ちゃんの方を見ると、葵ちゃんは察してくれてか、
「静葉、放課後美澄ちゃん借りていい?」
と静葉ちゃんに尋ねてくれた。
ムスッとして、私と葵ちゃんを交互に見る静葉ちゃんに、葵ちゃんはニコッと笑いかけた。
「なんか前々から、美澄ちゃんがバスケ部に興味あるって言っててさ。
今日特別に見学させてあげようと思って。」
葵ちゃんがそう言うと、静葉ちゃんは納得したのか、「いいよ」と言って、自分の席に帰って行った。
同時にチャイムが鳴り響く。
助かったと思い、葵ちゃんにコソッとお礼を言うと、葵ちゃんは笑顔で頷いてくれた。
そして私は放課後を待った。