描きかけの星天

ずいぶん日は傾いたというのに、まだ防波堤の熱は冷めてはいない。



片脚立ちになってもふらつかないのは、コウちゃんがしっかりと腰を支えてくれているから。安定感と安心感すら感じてしまうのに、間近にあるコウちゃんの顔は険しい。



「コウちゃん、もう大丈夫だよ」



肩に乗せた手を下ろして促すと、コウちゃんは目も合わせないまま私の腰から手を解いた。



「ここに座ってなよ、サンダル取ってくるから」



早口で言い残して、ひらりと防波堤の下へ。
転がったサンダルを掲げたコウちゃんは緩やかに口角を上げて、いつもの笑顔。

だから、サンダルを受け取った私も笑顔で返した。


「ありがとう」

「俺、何か飲み物買ってくる、何がいい?」

「緑茶、冷たいの」

「わかった、すぐ戻るから涼子はここで待ってろよ、しっかり踏ん張って、風に飛ばされないようにしな!」



すべて言い終わらないうちに、コウちゃんは駆け出していく。
大きな体を軽やかに弾ませて。



走らなくてもいいのに……と言おうとしたけど、もうコウちゃんには届かなさそう。






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