描きかけの星天

コウちゃんがマンションの向こうの角を曲がるのを見届けてサンダルを履いた。
このサンダルは失敗だったかもしれない。



海に向かって防波堤に腰を下ろしながら、眼下に並んだ波消しブロックを見つめる。



こちらに足を投げ出して座ったとして、またサンダルがすっぽ抜けたりしたら……
ブロックの隙間に落っことしてしまったら、いくらコウちゃんでも取りに行くことはできない。



せっかく履いたサンダルを脱いで、裸足を投げ出して座った。お尻からじんわりと伝わってくる防波堤にこもった熱は、素足で感じるよりも優しくていい感じ。



波の音を感じるより先に、カランカランと耳に心地よい高い音。



振り向くと、ヨシ兄と見知らぬ浴衣姿の女性が歩いている。



俯き加減でしとやかに歩く彼女の隣りで、ヨシ兄が白い歯を見せて笑う。なんだかよそよそしいヨシ兄の態度が、付き合い始めて間もない雰囲気を醸し出している。



見慣れない光景にドキドキしてしまう。



周りを見渡して、場所を探しているのだろうけれど、まさか浴衣を着た女性を防波堤の上に登らせるようなことはするまい。
涼しそうな顔で防波堤をなぞるヨシ兄の視線が私へと迫ってくる。



目を合わせたくなくて、とっさに顔を背けて息を潜めた。



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