描きかけの星天
そろそろ大丈夫かな……
そっと振り向いたら、ヨシ兄の姿はみえなくなっていた。
ほっとして光を失い始めた波の先端を辿って、沖へと視線を移していく。
対岸の島の向こうに、すっかり隠れてしまった太陽が陰を落とす。暗さを帯びた景色を浮かび上がらせるのは薄明るい街灯と小さな船の灯り。
それらも、今に花火に取って代わられるのだろう。
間もなく打ち上げられる花火に思いを馳せながらていると、ざっという音とともに視界の端に黒い影が飛び込んだ。
思わず仰け反らせた体を支えて、コウちゃんが申し訳なさそうに微笑む。
「ごめん、驚かせた」
私を座らせて、当たり前のようにサンダルを脱いで隣に腰を下ろした。
「ありがとう、遅かったね」
コウちゃんの顔を見たら安心したけれど、心臓がばくばくしてる。
「ああ、そこの自販機売切れ続出だったんだ」
差し出された緑茶のペットボトルの表面には、コウちゃんの額に負けないほどの水滴が輝いている。
ふぅっと息を吐きながらTシャツの裾から手を突っ込んで、ひらひらとはためかせるコウちゃんの額には汗の粒。
傍に置いてあるのは駅前のコンビニのビニール袋。