描きかけの星天
どこへ行くつもりなんだろう。
ヨシ兄の様子を気にしつつも、視界の大半を占めているのはコウちゃん。ペットボトルを置いた手をぶんっと振ると、まとわりついていた水滴が一気に弾け飛んでいく。
座り直した大きな肩に隠れてしまって、ヨシ兄たちは見えなくなっていた。
「鮭と梅、どっちがいい?」
おにぎりを手のひらに載せて、コウちゃんが問い掛ける。
「うーん……、梅」
どちらでもよかったけれど、近い方の手に載った梅のおにぎりを選択。手を伸ばしたら、ひょいと梅のおにぎりが遠ざかる。
空振りした手が行き場を失くしてもがくのを見て、コウちゃんがくすっと笑う。
恥ずかしいやら腹が立つやら、こんなことで怒るのも違う気がするし。
「ごめん、冗談」
コウちゃんが再びおにぎりを差し出す。
だけど、また引っ込めるんじゃないかと思うと警戒してしまう。
「コウちゃん、本当は梅が欲しいんでしょ?」
「違うって、ほれ、取ってみ」
手を伸ばそうかと迷いつつ疑いの目で見上げると、コウちゃんが目を細めた。緩やかに弧を描く口元の延長線上には小さなえくぼ。
幼い頃の記憶の中にいるコウちゃんの笑顔と重なる。
すっかり体型は逞しくなったけれど、あの頃と変わっていない。