うちの嫁
もうお分りでしょう?
わたくしという人間が。
なにかに逆らって道が険しくなるなら、黙って遠回りする。なにに対しても口答えせず、楯突かず、そうやって今日(こんにち)まで穏やかに生きてきましたの。
「ギャルだったらどうする?」
和津ちゃんは、こう、そぐわない冗談をよく言います。うちの信明が、ギャル?を連れてくると。すると牧江さんが「外国人とか?」真顔で尋ねるも「なんにしろ上下関係よ‼︎」と息巻く早苗さんに一蹴される、いつもの構図。
わたくしは、ギャルだろうが外国人だろうが、優しい人ならそれでいい。
娘が欲しかった。
そんな大それたこと、主人には口が裂けても言えません。なにかを望み、欲することは、この平坦な生活を少なからず揺らすこと。でも本当にギャルが来たら、根底から揺るがされるのかしら?
なんて考えながら、そろそろかしらと腰を浮かせた時、がらがらと派手な音を立ててドアが開きました。
「母さん、ただいま」
透き通るような信明の声に、私は玄関までいそいそと出迎えました。
息子と、息子が連れてきた、お嫁さんとなるお嬢さんを___。
「いやぁ、暑い。これだけ暑くても役所は節電節電って、なにがクールビズだよ。裸で仕事していい加減なんだよ。こういう日は、母さんお手製のちらし寿司とビールでキュッといきたいね。あ、ザッハトルテ買ってきてくれた?」
「…買ってきましたよ」
買ってきましたけど…。
「んじゃ、上がらせてもらおうか?」
信明が、頷いた。
手を繋いでいる、お嬢さんに向かって。しかし、お嬢さんは返事をしない。
そりゃそうだろう。
なぜなら。
信明が連れてきたお嫁さんは___。