うちの嫁
チンパンジーだったからだ。で、1ページ使わせて頂いて宜しいでしょ?だってあなた、チンパンジーですわよ。動物園から逃げ出したような、お猿さんよ。
「お義母さま、これ、つまらないものですが」
って、デパートの菓子折りを出し、淡い黄色のワンピースを来て、揃えたであろう靴をちゃんと揃えるわけでもない、ただのチンパンジー。
第一、靴なんて履いてません。
わたくしが用意したスリッパも、サッカーのPKっていうんですか?そんな感じで思いっきり蹴って飛んでいきました。
一度、私に向かって威嚇するように歯茎を剥き出しにして唸り、あれはコンニチワって意味だよと後から信明に教えてもらったけれど、どう差し引いても敵意と獣の匂いで上下関係を植え付けようと___。
そうだわ、上下関係。
慌てて居間に戻ると、信明は改まって正座をしている。
座布団も脇に退けて。
これは今から変わることを宣言する。男から夫へ、そして父になるための通過儀礼。それが分かっていたからあえてお台所に立ち、お茶を沸かしました。
ちらっと覗き見ると、嫁のチンパンジーは信明にしなだれかかり、その大きな毒蜘蛛のような手で信明の頭をおざなりにペシペシ叩いていす。
まるで木魚。
やがてお茶は沸き、素麺を茹でようとしたが信明に呼ばれまして。
相変わらず、チンパンジーは木魚を叩いている。
「あ、お母さん、暑いから水羊羹も買ってきたの」
の、お、の時点、即ち、お母さんの時点、私がお盆をテーブルに置くか置かないかの時点で、チンパンジーは水羊羹を素手で引っ掴むと、口に放り込んだ。
それも、信明と私の分、合わせて3つ。
間も無くゲップをし、木魚を叩く。