あの日の雪を溶かすように
「…何歳なの?君」
アリスは先制攻撃を試みた。彼女にしては大胆な作戦である。
「その前に、俺の質問。アリスは、本名なの?」
男はアリスの決死の攻撃を あろうことかスルーした。

(…ウザい。っていぅか、ぶん殴りたい。)
アリスは耐えていた。お客様が第一だという言葉が、彼女の頭の中で響く。
男はやけに笑顔だ。

…ふーっ。と、アリスは大きなため息をつくとしぶしぶ口を開いた。
「…本名です。お客様。」
それを聞いて男はニッと笑うと、
「俺は、片山…」と、自己紹介を始めようとした。
が、アリスはそれを得意げにさえぎってみせた。

「後ろのお客様のご迷惑になりますので、お引取りください。」
もちろん、とびきりの 笑顔で。

「…」
男は黙って後ろを振り向くと、列どころか客一人もいないのを確認してから
「…ホントだ。ごめん。営業妨害だった。またね。アリスさん。」
と、笑顔で言うと、そのまま外に行き アリスに手を振ってすんなりと帰っていった。

「……」
彼女は何か負けたような気がした。
「…うッぜェ」
一言発した彼女は同時に、
あの日と同じように、
自分の胸の高鳴りを隠そうと  必死だった。

< 15 / 313 >

この作品をシェア

pagetop