あの日の雪を溶かすように
「もしもし…葵…
もしもし…!」
シュウは一瞬、アリスから顔を背けた。
見てられない。
気持ちは痛いくらいにわかる。
でも、受け入れなきゃ、駄目なんだ。
現実と向き合わなきゃ、駄目なんだ。
「アリス…もうよせ…」
シュウが眼を閉じたまま、小声で言った。
アリスに聞こえたのか、聞こえなかったかはわからないが、どちらにしろ
彼女は続けた。
「もしもし…!もしもし…!」
「アリス…もう葵はいないんだよ!
ガキじゃねぇんだから、もうよせよ!」
今度は力強く言った。
それでも、アリスは続ける。
遂にシュウは立ち上がり、
ケータイをアリスから取り上げた。
呆然とした表情で
アリスは固まったまま動かない。
「…まだ、渡すべきじゃなかったな。
ごめん。まだ…早かった。」
シュウが小さく呟いた。
アリスの右手はまだ、
携帯を持っていた形のままで。