あの日の雪を溶かすように
「…」

「…私も、思った。死んだって。
     …母さん、みたいに。」
アリスがゆっくりした口調で言った。後半は、誰にも聞き取れない程に、小さく。

「…」

葵はグイッと眼にたまった涙を拭うと、
黙ってアリスを見た。
まだ、鼻が赤い。

「…悪かったよ。これからは気をつけるから。」
アリスはまた、笑みを浮かべた。

「自分のために、…っすよ。」
少し震えた声で葵は言った。

「…うん。わかってる。」

ちょうど二人の会話に一段落がついた時、
カーテンの向こうから、すいません、と声がした。


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