あの日の雪を溶かすように
アリスのいる最後の家の、電話が鳴り響いた。

「アリス。電話だ。クラスの、サクラ君?」

「えっ?」 
旅支度をしていたアリスは急な呼び出しに、戸惑いを隠せなかった。

「…はい 」

「あぁ、アリス?ごめん、急に。えっ…と、俺、アリスに黙ってたことがあるんだ。」

「?…何?」


アリスの乗る電車まで、あと一時間。


「何のこと?」 アリスは続けた。

「…アリスってさ、両親、いないだろ?」
 桜は少しためらいながら口にした。

「…いない、ょ」
 アリスが声を震わせながら答える。

「実を言うとさ、俺もなんだ。俺もいない。
母さんも、父さんも。」

「…」

「…なん、で…?」

しばらくの沈黙の後重く口を開いたアリスは、そこで初めて、
動揺を隠せずにいた自分に気付いた。




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