優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新
28.追い詰められた命 -冬生-
H市。
真人と神楽姉ちゃんの大切な故郷は、
一月の震災の凄まじさを物語。
倒壊した家屋。
危険と書かれたテープが至る所に貼られて囲われ、
ブルーシートが目立つ。
あの日からもうすぐ四ヶ月。
まだまだ復旧と言う言葉には程遠い市街地。
そんな街の中をタクシーは駆け抜ける。
前方を走るタクシーが停車すると、
ボクたちを乗せたタクシーもゆっくりと停まった。
タクシーを降りて、恭也小父さんの方へと向かう。
「冬生、この辺りが真人と神楽が住んでいた家があった場所だ。
私は向こう側を探す。
冬生は、瞳矢くんと逆側を探して貰えないか?」
恭也小父さんの言葉に頷くと、
僕は、義弟と飛鳥君と一緒に左側を探し始める。
僕たちが動き始めても、
瞳矢だけはその場所から一向に動こうとはしない。
ただ黙って何処かを見つめているみたいだった。
慌てて瞳矢の視線の方向を見つめる。
半倒壊した建物。
「瞳矢?」
瞳矢の名を呼んで、
その深刻そうに思いつめた時間を遮る。
「瞳矢、どうしたんだよ」
飛鳥君もまた、歩き始めた道を戻ってきて瞳矢を気遣う。
瞳矢はその後も暫く沈黙した後、
ゆっくりと言葉を発した。
「あの家、この街にいた時にボクが住んでた場所なんだ。
あの更地になってるところは、真人の家があった」
「それだったら、お前……アイツとめちゃくちゃ近いじゃん」
「近いよ。
ボクと真人は、幼馴染だけど……感覚的には兄弟だったから。
真人の小母さんのピアノでボクは、ピアノの楽しさを知った。
真人のお母さんはボクにとっても先生だから。
でもその先生も……あの震災で、あの場所で亡くなっちゃった。
そんなこと考えてたら、悲しくなっちゃって動けなかった。
真人……もしこの景色見てたら、どんなふうに思っただろ。
それを考えるだけで苦しくなるんだ」
瞳矢と浩樹の会話を聞きながら、
この場所が、和羽にとっても大切な場所なのだと心の中に刻み込む。
ここには、僕の知らない大切な時間が刻み込まれていたんだ。
そう思うと、不思議と僕自身の心も痛かった。
生まれて初めてきた場所だと言うのに。
「瞳矢、瞳矢も悲しかったね。
僕も……今、いろんなことを考えてた。
だからこそ……、神楽姉ちゃんがずっと守り続けたかった真人を
僕たちが守らないとね。
今日、恭也小父さんに話そうと思うんだ。
真人が見つかったら。
瞳矢の病気のことも含めて、真人と一緒に暮らしたいって。
ちゃんと……真人のことも考えて、話し合うから。
その為にも、今は真人を探そう」
話題を変えるように、自分を奮い立出せると
その後も周辺を探し歩く。
それでも真人が見つかることなくて僕たちはタクシーを停車させた、
更地となった真人の家の前まで戻った。
次に恭也小父さんに誘導されて向かったのは、
丘の上にある霊園。
タクシーを降りると、
海の香りが風に乗って運ばれてくる。