優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新
「真人っ!!」
ゆっくりと目を開いた僕を見て、
お父さんが名前を呼ぶ。
「…………」
お父さん。
「大丈夫か?」
「……はい……」
「すまない。
私が気づかぬばかりに
真人を辛い目にあわせてしまったな」
お父さんの目から涙が零れ落ちる。
もういいんです。
そんなに自分を責めないでください。
お母さんに話は聞きました。
「……お父さん……」
素直に零れた言葉。
今はもう……苦しくない。
「真人、もう何してるの。
僕、心配したんだよ。
コンクール……有難う。
一緒に演奏出来て嬉しかったよ。
それに……お花も嬉しかった。
でもどうして楽屋に来てくれなかったの?
ずっと待ってたんだよ。
僕がピアノを触れなくなったのは
真人の責任じゃないのに。
僕が……病気だから……。
でも嬉しかったよ。
真人が僕の最後のステージを
手伝ってくれて」
突然、後ろから現れた瞳矢は
ベッドに横たわる、僕の体に覆いかかる。
「瞳矢、平気だよ。
まだ弾けるよ……。
僕が瞳矢の手になるから。
僕が瞳矢の足になるから。
僕たちずっと同じ夢を
描いて歩いてきたんだよ。
また……一緒に
デュエット演奏するんだよね」
「……うん……。
そうだよ、真人」
瞳矢の瞳からも涙が零れ落ちる。
「ねぇ浩樹、真人意識戻ったよ。
もう自分を責めなくていいから。
真人はちゃんとわかってくれるよ」
「……」
瞳矢に名前を呼ばれて、
僕の方に近づいてきた彼。
彼は僕の傍で何も言わずに、
黙って俯いている。
「心配かけてごめんね……」
素直に言葉が出た。
どうしてこんなに思うままの言葉が
今は出るのだろう。
皆の姿を見ていたから?
お母さんに逢えたから?
「俺も……ゴメン。
俺、おまえが居たの知ってたんだ。
でも引き止めることしなかった。
お前の演奏に……悔しくてさ……。」
「うん。有難う。
今はこうして来てくれた。
こんな遠くまで……」
「許してもらえるのか?」
「許すも許さないもないよ。
君は瞳矢の友達でしょ。
君がいいなら……僕にとっても……」
「……有難う……飛島浩樹。
隣のクラス紫陽花にいる。
飛島でいい」
「うん。
よろしく飛島」
「真人、浩樹、全国大会本選出場決まったんだ。
でもね。
出場は悩んでるみたい」
「えっ?」
コンクールの全国大会本選の出場を悩んでる?
罪悪感から?
それは僕のせい?
「お前のせいじゃないよ。
多久馬も出るんだろ。
瞳矢の後を追いかけて。
だからその時までお預けって言うか」
そう言いながら言葉を濁す飛鳥に、
咲夜が口を挟む。
「生ぬるい友情ごっこのつもり?
俺も全国大会の本選に出場は決まってる。
だけど俺は、辞退なんか考えてない。
それこそ、真人に失礼だろ。
違うか?
飛鳥君だったかな?
君が出場を悩むのは自信がないからかな?
それを真人や瞳矢君だったかな。
彼らの責任にするのはどうかと思うよ」
咲夜の言葉に、険悪な空気が走る。
「咲夜……言い過ぎだよ」
たまりかねて呟くと、
飛鳥は『そうかもしれないな』っと一人呟いた。
「お前が言う通りかもしれないな。
最近、俺は俺の音を見失ってる。
けど……だからって、多久馬や瞳矢のせいにして
棄権って言うのはダメだよな。
目が覚めたよ……」
「そっか。
浩樹、最近……音色の様子がおかしかったんだよね。
力強いけど飛島の音色じゃなかった。
でも、ボクは浩樹にもコンクールに出て欲しいよ。
真人もそう思うよね」
瞳矢の言葉に、僕はゆっくりと頷いた。
僕だって、
飛鳥の未来を奪いたいわけじゃない。