優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新
「真人君はなんじゃったかな。
どっかのお偉い病院の先生が、
向こうに連れて行ってしもうたな」
そう言うと、乾さんはまた散歩の続きをしていたのか
その場所から離れていった。
次に向かうのは、伯母さんが眠るお墓。
同じように住所を手掛かりに、
墓地まで辿り着くと、此処に来るまでに花屋で購入した
花をお墓の前で献花して、静かに手を合わせた。
*
おばさん、こんにちは。
今も俺、ピアノ続けられていますよ。
昔、伯母さんにピアノの楽しさを教えて貰って良かった。
母さんの練習だけじゃ、
基礎ばかりで何の楽しみも得られなかった。
震災の件、ずっと気にかけてました。
母さんもまだ来られていないけど、ワールドリサイタルが終わったら
飛んでくると思うから。
もう少し待っててください。
お墓の写真だけ取らせてください。
母にメールしておきます
*
お墓の前に座って、そんな会話をすると
携帯を取り出して、カシャリとお墓の風景を母の携帯にメールした。
そのまま駅へと戻って、新幹線で移動していると
一通のメールが着信を告げる。
マナーモードにしたまま、そのメールを開くと
送信相手は、母だった。
*
咲夜、姉さんの墓参り行ってくれたのね。
写真有難う。
私もこの仕事が終わったら行くわ。
後、咲夜のことだから真人も探しに行くんでしょ。
真人は今、本当のお父さんと一緒に暮らしてるの。
お母さんが離れてる間に、ロンドンの自宅に、真人を引き取っている
彼の本当の父親から、エアメールが届いてたわ。
私のもとに届くまでに時間がかかってしまったけど、
真人のことは心配しなくていい。
姉さんのことをずっと見守って愛し続けた恭也君だから
ちゃんと任せられるわ。
紫音さんの仕事が終わったらちゃんと帰ってくるのよ。
後、一目会いたいと思うから
真人の居場所、連絡しておくわ。
多久馬総合病院
この病院の院長をしてるのが恭也君。
真人が小さい時、心臓を手術したのは話したでしょ。
その執刀医も彼なのよ。
*
その後、メールには住所が書き記されていた。
伊集院さんの滞在先である、娘の穂乃香の家を訪ねると
穂乃香は懐かしそうに俺を迎え入れてくれた。
「いらっしゃい。咲夜君。
パパ、奥の防音室で演奏してるよ」
「有難う。
奥はいらせてもらうね」
そのままノックして、防音室のドアを開けると
伊集院先生は、ラフマニノフを弾きつづけていた。
圧巻の演奏に暫し、耳を傾けた後
演奏が終わったタイミングでお辞儀をする。