優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新
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デスクの引き出しの中に今も納まっている
一枚の古びた封筒。
そのなかに、ボクの宝物が詰まってる。
引き出しのなかからそっと取り出して、
ボクは幼い頃の思い出を抱く。
『瞳矢、ぜったい忘れないよ。
僕と瞳矢はずっと友達だから』
すでに色褪せてしまった
セピア色の便箋に書かれた、
真人の力強い文字。
引越しの朝、
真人がボクに届けてくれた一枚の手紙。
……真人……
僕が真人に出来ることはないのかな?
ずっと独りで全てを抱え込むなんてしんどいよ。
真人はずっとボクを助けてくれたんだから、
今度はボクに甘えてくれていいんだよ。
★
「瞳矢、入るよ」
ノック音の直後、
扉が開いて兄さんが顔を見せる。
「……兄さん……高雅先生は?」
「今病院まで送ってきたよ。
真人君の様子はどう?」
「今は大分、落ち着いてるよ。
時折、苦しそうに顔を歪ませるけど……眠ってる」
義兄さんはベッドサイドに近づいて、
真人の様子を診ると、点滴パックの液体が空になったのを確認して
高雅先生が処置していった点滴の針をゆっくりとはずした。
「そうだね。
このまま朝には熱がもう少しさがってくれれば
安心だね」
「……うん……」
「瞳矢、神前医大の天李(てんり)先生から連絡貰ったよ。
今日は一緒に病院にいけなくてごめんね」
「ううん、義兄さんも仕事なんだから仕方ないよ。
なんかまた検査に行かないといけないみたいなんだ」
ここ数日の検査でただ一つわかっていることは、
ボクの筋肉が衰え始めていると言うこと。
筋肉が衰える病気のいくつかをボクはテレビで見て知ってる。
だから……多分、
ボクもそうなってしまうのかも知れない。
そんな恐怖がボクに押し寄せる。
まだ決まったわけじゃない。
告知されたわけじゃない。
だけどボクの指が日に日に動かなくなっている現実が、
マイナス思考へと発展させていく。
「瞳矢、大丈夫。
僕がついてるから心配しなくていい」
義兄さんがボクの不安を感じ取ったのか、
そう言って抱きしめてくれる。
優しい声に誘われるように、
ボクの瞳から伝い落ちる涙。