優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新

13.命の重み - 冬生 -



瞳矢の通院から一月が過ぎようとしていた。


僕は相変わらず、指導医の大夢さんの元で研修に追われながら
仕事の後には、多久馬邸にお邪魔して真人君の家庭教師。

仕事と家庭教師の後に、帰宅したら
家族のケアと、追われるな日々を過ごしていた。

そんなある日、僕にとって何時かは来ると思いながらも、
出来ることならこんな日は迎えたくなかった、その日はやってきた。


「西宮寺、今日はお疲れさん。

 今日はお前にとっちゃ初めてだったな。
 担いだの。
 
 お前が選んだ道のりは険しい」


指導医の言葉が今の僕には突き刺さる。

研修医になって初めて受け持った患者が、
今日……亡くなった……。


瞳矢と同じ年頃の男の子だった。


僕の中で、その少年の死が何時かは訪れる瞳矢の未来とLINKしていく。


……死……は誰にでも訪れる。

両親が亡くなったその日から、
何度も何度も自分に言い聞かせて納得させてきた。

必死に納得しようとしてきた自然の理。

その理を今も受け止めきれずに……いる……僕自身。


「おいっ。

 何時までも引きずってないで西宮寺、
 気持ち切り替えて次の患者のところに行け」


指導医の怒鳴り声が響くが、
僕は……その場から進めずにいた。



「もういいっ。

 なら気持ちを切り替えてこい。
 私情を仕事に持ち込むな」


大夢さんはそのまま、患者さんの急変を知らせに探しに来た
看護師と共に慌ただしく移動していく。

そんな現場から、逃げ出すように背を向けて
駐車場へと走った。


逃げ込むように運転席に飛び込んで、
街の中を彷徨うように愛車を走らせて
辿り着いた場所は……幾つかある中の僕の母校の一つ。


恭也小父さんと両親が病院を経営始めた頃、
僕が寮生活を過ごしていた神前悧羅学院悧羅校。


その学院で初等部の寮生活を共にした先輩であり親友、
伊舎堂裕真【いさどう ゆうま】。



ふと脳裏に浮かぶ、その親友のもとへ
僕は携帯から発信していた。


時差も何も考えれるはずもなく……。


「Hello.」


暫くして少し掠れた懐かしい声が心地よく耳に届く。


「……裕真……」

「どうかした?冬、珍しいね」


何もかもが懐かしく心地良い感覚が
僕の中を満たしていく。


「寝てた?」

「……寝てた……」


寝てた……。
その言葉に気まずさを感じ始める僕。


「切ろうか……」

「構わないよ。
 用事がないのに冬が電話をしてくるはずないよね」



全てを見透かしたように受話器の向こうでクスリと笑う表情が、
脳裏に思い浮かぶ。


溜息の後、ゆっくりと続きを話す僕自身。


裕真は僕が話し終わるまで時間をさいて聞いてくれた。
< 48 / 132 >

この作品をシェア

pagetop