優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新



冬お兄ちゃんがこの場所で暮らしていたなら、
もしかしたら今の僕の境遇をわかってくれるかも知れない。



すぐに優しそうな家族の温盛がある家庭にみせたがる
この人の性格を……だけど……此処にそんな場所はないことを。

勝矢兄さんを脅かす存在は邪魔者でしかない存在なのだということを。




早く、出て行ってください。

此処は貴方がくる場所じゃない。

僕と一緒にいると貴方はケガレテしまうのでしょう?




「真人君は素直な良い子ですよ。
 今も昔も変わってません。

 勉強の飲み込みも早いですし、僕が家庭教師を
 引き受けるほどの事もなかったかもしれませんね。

 自主性を持って自分自身で予習もされています」



えっ、冬お兄ちゃん……今も昔もって、
僕だけじゃなくて、あの頃のことをお兄ちゃんも覚えてくれてる?

その話題を切り出したくても、
今はまだ昭乃さんが邪魔をする。


「まぁ、そうですの。
 これで安心致しましたわ。

 西宮寺先生と真人さんが勝矢さんと恭也さんを
 支えてくださったら病院の運営も安泰ですわね」


どうして思ってもないことを平気で言える?



僕は必要ないんだよ。
この家にも……あの病院にも……。

……駄目だ……また体が震えだす……。
今はやめて……他の人の前では取り乱したくないから。


言うことをきいて……咄嗟にこれから迫り来る
発作の予兆のようなものを感じて、僕は体をキツク両腕で抱きしめる。



震えている姿なんて見られたくない。

鼓動が早くなる。
吐き気が襲ってくる。

僕は俯いたまま、その時間をやり過ごす。


「真人さん、西宮寺先生に褒めていただいてよかったわね」

「…………」


……お願い……。

いつものように会話を続けさせて。


「真人君?」


平気……僕は平気。
震えなくていいから……今は大丈夫。

此処には、冬お兄ちゃんがいる。

冬お兄ちゃんが居る限りは、
昭乃さんも勝矢さんも僕に危害は加えない。

「すいません」


ようやく絞り出すように告げたのは、
義務的な謝罪。

この場所に来てからの口癖のようになった言葉。

「まぁ、どうかなさったの?
 顔色が悪いわ。
 大丈夫、真人さん?」

「……はい……」

「それでは、私はこれで。
 西宮寺先生、どうぞゆっくりしていらしてくださいね。

 今度はお食事でも?」

「妻がいつも待ってますので」

「まぁ、そうだったわね。
 だったら奥様もご一緒にいらしてくださいね」


そんな会話をして、昭乃さんは僕の部屋を出ていった。


それでも僕の発作はなかなか落ち着かない。

過呼吸になりかけているのか、どれだけ息を吸おうにも
息が入ってこない。


「真人君?」



僕の状態に気が付いてくれた冬お兄ちゃんは慌てて、
近くに常備してあった、紙袋の存在に気が付いて
僕の口元にゆっくりとあててくれる。


そのなかで何度か呼吸を繰り返すにつれて、
息がしやすくなって、ゆっくりと体を落ち着けることが出来た。


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