優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新

「多久馬って、真人のこと?」

「なんだよ、瞳矢。
 もう真人って呼び捨てするようになってんのかよ」

「真人は、ボクの幼馴染。
 再会できて、凄く嬉しかったんだ。

 それより、真人がどうかしたの?」

「あいつ、あの総合病院の養子に入ったみたいだぜ。
 あそこの息子、勝矢さんが不機嫌そうに話してたよ。
 
 勝矢さんって言ったら、あそこの跡取りだろ。
 そこに養子で誰か入ってきたら危機感有るよな」

「それだったら平気じゃないかな」

「何が?」

「詳しい話はボクも知らないけど、
 真人の小母さんは、多久馬院長の知り合いみたいだって
 昔、母さんが言ってた。

 あそこの病院、風邪ひいたりして通う様になって暫くして
恭也先生と会う機会あった時に、真人と幼馴染だったんだよって話したら
 先生びっくりしてた。

 先生、真人の写真も持ってたくらいだし
 震災でお母さん亡くなったみたいだから、頼ってきたんじゃないかな」


真人をわかって欲しくて、誤解して欲しくなくて
ボクは知ってる情報を提供するように浩樹へと語った。

「そっか、なら忘れてくれ。
 瞳矢、俺此処で。
 また明日学校でな」


交差点で浩樹と別れて、
ボクは浩樹の言葉を振り返る。


浩樹がどうしてそんな話をボクにしたかはわかんないけど
多久馬医師だったら安心できる。


多久馬先生は、冬生兄さんのお父さんの親友だし
高校生の時に、冬生兄さんのご両親が亡くなってからは
親代わりになってきた人。

冬生兄さんと和羽姉ちゃんの結婚式の時も、
親族の席に、恭也先生は姿を見せてた。


鞄を肩に引っ掛けて、ボクは指先をマッサージしながら
今日の出来事を振り返りつつ、自宅へと歩みを進める。



嬉しかった出来事は真人との再会。
これに尽きるよね。

だけど真人の様子、
今考えたら少しおかしかった気がする。

会話の途中で真人の様子はみるみる悪化して
苦しそうで……震えてた。

ボク、真人を傷つけたのかな?

真人にとって、
ボクは……まだ親友なのかな?

ボクは、ずっと親友でいたいのに……。

真人はずっとボクを守ってくれた。

真人と出会ってから、
ボクは少し強くなれたんだよ。

泣いてばかりのボクじゃ、
ダメなんだって。


転校して真人と離れてからも、
ずっと忘れたことなんてなかった。

真人をずっと思ってきたのに。
真人にとってボクはもう必要ないの?

だから逃げた?

……ううん、違う……。

逃げるなら、
最初から振り向いてくれるはずない。

ボクが抱きしめた時も抵抗しなかった。

真人はボクを映してくれた。


なら……どうして?

どうして、何もいわずに
真人は走り去ったの?

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