優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新


その音を受けて真人は……音色を重ねていく……。


真人の奏でる音は、とても優しくて柔らかくて
ボクの不安をしっかりと包み込んでくれる包容力に満たされている音色。


そして繊細な中に力強さの灯る音色。



しばしの時間を忘れて、ボクは真人と心通じた
その時間に身を委ねた。


言葉では伝えることの出来ないこの想いの全てを。

第一楽章、第二楽章、
そして第三楽章であるロンド形式。

その日……初めて奏でた音色はボクの音楽生活の最後には
もったいないほどに……華やかな時間になった。


演奏を終えると
ボクは……真人を見つめる……。


観客からの拍手が途絶えた時間、
真人は唇をかみしめるようにして俯き、
ステージを駆け出してボクの前から姿を消した。


遅れて……わきあがる歓声。


洪水のような拍手の中、ボクは慌ててお辞儀をして
ステージのソデへと向かう。



「瞳矢っ。
 あの演奏は何だよ。

 それに……アイツ……。
 なんでアイツがここにいるんだ。

 アイツが瞳矢の音色をこんなにしたのか」



ソデに戻った途端に、
浩樹の声がボクを責めるように言い放たれる。

同時にボクを掴む腕にも力が込められた。


「痛いよ。
 何のこと言ってるの?

 それより……浩樹、真人知らない?

 真人が来てくれたんだ。

 一緒にピアノも演奏したのに、
 最後の夢が叶ったのに……消えちゃった……」

「アイツ、あれだけ昨日言ってやったのに、
 懲りずに来やがって」



えっ?
浩樹、何のこと言ってるの?


「檜野さん。
 カウンターで花束をお預かりしました」


楽屋に戻ったボクに会場のお姉さんが
届けてくれる。



「瞳矢。
 どなたから頂いたの?」

「母さん、真人からだよ。

 さっき、真人とピアノ協奏曲弾いたんだ。
 演奏終わってボクの前から慌てて消えちゃった。
 
 真人がボクの前から消えちゃう。
 
 義兄さんは?
 早く……連絡とって……。
 
 今ならまだこの近くにいるかも知れない」



ボクの心の中は途端に不安で押し潰される。

真人の届けてくれた花。
その花は綺麗だけどとても寂しい花。

花言葉が三つ。



・感謝
・さよなら
・素敵なお便りを祈っています






何?
これっ?



真人、どういう意味?
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