優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新
「瞳矢、出掛けるよ。
院長がヘリを出してくれる。
早く」
瞳矢の楽屋に顔を出して僕は、
お義母さんと和羽の許可を貰って瞳矢を連れ出す。
「あの……。
俺も連れて行ってください」
表彰式から戻ってきたらしい、楽屋に戻って来た飛鳥君が、
僕と瞳矢に話しかける。
瞳矢は僕の方に視線を向けて、
飛鳥君に言葉を返す。
「うん。
でも浩樹、授賞式は?」
「いらない。
辞退してきた。
俺だけが此処でのうのうしているなんて許せない。
俺は受賞者として相応しくないんだ。
演奏だったら……
お前と、アイツのピアノ協奏曲の方が
綺麗だったよ。」
「母さん、行ってくるね」
「和羽、後……頼むね……。
また落ち着いたら連絡する」
僕は瞳矢と飛鳥君を連れて
再び多久馬総合病院まで車を走らせる。
そして一気に……、
病院の屋上へと向かった。
病院の屋上。
ヘリポートにはヘリが一機、
着陸していて残る二機が、旋回しながら
着陸するタイミングを待っている。
手配したのは、二機だときいていたのに。
屋上には、
もう一人見知らぬ顔が姿を見せる。
「あっ……なんでなんだよ。
伊集院紫音、穂乃香ちゃんの父親と
その傍に居るのは、羽村咲夜。
ピアニスト、羽村冴香の息子だろ」
そう言った飛鳥君の言葉にもう一度見つめる。
「冬生」
「院長、遅くなりました。
義弟の瞳矢と、瞳矢の親友の飛鳥君です。
そちらは?」
「羽村君の付き添いの伊集院先輩。
それと真人の従兄弟の咲夜君だ」
「真人の従兄弟……。
彼は神楽姉ちゃんの
妹さんの息子さんってことですか?」
「あぁ。
順番にヘリが離着陸する。
冬生、瞳矢くんと飛鳥くんと順番に乗り込みなさい」
「院長、飛鳥君を同席させて頂いていいですか?」
「あぁ、構わない」
「飛鳥君、君は多久馬院長と同じヘリへ」
小父さんの声に従う様に僕は着陸しているヘリへと、
瞳矢を連れて一緒に乗り込む。
マイク付のヘッドホンを装着すると、
エンジンが始動しプロペラ音が大きくなって
ヘリは離陸を始める。
入れ替わりに、次のヘリが屋上に着陸していくのを確認しながら
僕たちを乗せたH市へと向かい始めた。
真人、今すぐ迎えに行くよ。
瞳矢を連れて、
君の元へと行くから。