優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新
すでに地区大会本選に出場するメンバーたちは、
華やかなドレスや、タキシードなどに身を包んでる。
私も更衣室とかかれた部屋へと向かって、
パパにプレゼントされた衣装に身を包む。
サーモンピンクの柔らかな生地をたっぷりと使って
仕立てられたカクテルドレス。
ドレスを纏って髪を整えて
メイクをしたら、鏡に映る私は普段とは別の顔。
地区大会予選の時は、こんなことしなかったけど
今回は一般客も入っての審査だから、ステージ衣装も必要で。
楽屋も更衣室も、ピリピリと張りつめた空気が漂っていた。
それでも……咲夜も私も、
現役ピアニストの子供である事実は変わらなくて
遠巻きに、ひそひそと噂話に名前があがっているのが聞こえる。
そんな時間は、やっぱり今も慣れることなんて出来なくて
慌てて更衣室を出て、咲夜と合流すると、
楽屋に戻りながらも瞳矢の姿を探している私がいた。
楽屋に戻っても、まだ瞳矢の姿は見つけられなかった。
鞄の中の携帯電話を取り出して、
じっと瞳矢の番号を呼び出して見つめる。
発信したい気持ちと、
ボタンが押せない気持ちとが複雑に渦巻く私自身の心。
楽屋に瞳矢の姿を見つけたのは、
コンクール開始5分前。
瞳矢のお兄さんらしき人が傍に居て、
瞳矢自身は両手を組んで、祈るような仕草で真剣に集中してる。
そんな姿を捉えてしまうと、
集中を切るために、瞳矢の邪魔は出来ないと私は
傍に行きたい心をグっと抑え込んだ。
膝の上で、音を思い浮かべながら
今日演奏する、課題曲と自由曲を脳内に響かせながら運指を確認する。
そうやって自分の出番まで待ち続けていると、
後少しで私の出番まで、やってきた。
コンクールの地区大会本選が始まって、
すでに1時間以上が経過しているみたいだった。
「穂乃香、いよいよだね。
健闘を祈ってる。
俺は少し出掛けるよ。
気になることがあるからさ」
そう言って咲夜は、
私を楽屋から送り出して何処かへと姿を消した。
楽屋から向かったステージそで。
同じ音楽教室に通っていた、飛鳥くんがステージから
拍手と共に帰って来ているところだった。
「あっ、穂乃香ちゃん」
「お疲れ様です。
演奏は今ここに来たところだから聴けなかったけど」
「そっちは後、もうすぐだよね。
頑張れよ。 その前に今から瞳矢だよな。
アイツとは話した?」
悪気はないとは思うけど、さり気なくフラれる瞳矢の話題に
心がチクリと痛む。
「コンクールが終わってから話すよ。
瞳矢も今は集中したいと思うし」
「だよな。
アイツは、ここの地区大会で確実に代表になる存在だからな。
その後は、俺と穂乃香ちゃんが確実に手に入れて
他の奴は残念でした……だよな」
そんなことを言うけれど、
私自身、今回は厳しいのは言い逃れることのできない現実。
暫くすると、
ステージからたどたどしい音色が聞こえてくる。
隣にいた飛鳥君は、
何か言いたげな表情でステージを見つめる。
この後、出場する予選通過メンバーたちからも
ひそひそと、瞳矢の演奏に対する言葉が棘のように紡がれていく。