優しい歌 ※.。第二楽章 不定期亀更新
27.故郷に降り立つ日 -瞳矢-
コンクールの後、ボクは義兄さんたちと一緒に
ヘリでH市へと向かった。
上空から望んだ、
ボクの故郷は変わり果ててしまっていた。
ヘリポートに着陸して、ドアを開けて貰ったボクたちは
タクシー乗り場の方へと急いだ。
三台のタクシーに別れて、乗り込むボクたち。
真人のお父さんと、羽村冴香さん。
穂乃香のお父さんに、羽村さんの息子さん。
そして、ボクと浩樹と義兄さん。
それぞれに別れて市街地へと向かった。
僕は真人から連絡が入っていないのか、
僅かな望みをかけて、義兄さんに留守番電話を確認して貰う。
向こうにいる、
お母さんや和羽姉ちゃんたちに連絡があるかもしれない。
だけど……真人からの連絡はなくて、
ボクは自分の携帯を取り出した。
画面に表示させたのは、直澄【なおずみ】の連絡先。
この街でボクが今、繋がっているのは
ずっと文通を続けてた、直澄しかいないから。
震える指を必死になだめながら、発信ボタンを押す。
「もしもし、瞳矢どうかしたの?」
「直澄、急にゴメン。
今、何処?真人見なかった?」
直澄の声を遮るように立て続けに質問攻めにするボク。
「何?真人来てるの?」
驚いた様子でいる直澄は、
真人がこの街に帰って来ているかもしれないことすらすらないみたいだった。
真人、本当に誰にも自分の居場所を知らせていないの?
「震災の後、ボクが引っ越しした街に真人が引っ越ししてきたんだ。
高校で再会したよ。
けど真人、消えてしまったんだ。
それで此処かもしれないって、皆で探しに来た」
「わかった。
瞳矢、俺もすぐに行くよ。
こっちのクラスの子たちと一緒にさ。
アイツらも喜ぶと思う。
皆、真人のこと心配してたから。
見つけたら、連絡するよ。
瞳矢も後でゆっくり話そうな」
そう言って、久しぶりに連絡した友人は
頼もしい言葉をくれた。
市街地に到着するとタクシーを降りて、
ボクたちは真人を探し始めた。
ブル-シートに覆われた場所、危険と記されたテープが貼られた建物。
全ての撤去作業が終わって、更地になった場所。
真人が体験した地震の凄さが伝わってくる街並み。
「冬生、この辺りが真人と神楽が住んでいた家があった場所だ。
私は向こう側を探す。
冬生は、瞳矢くんと逆側を探して貰えないか?」
真人のお父さんに言われた義兄さんは、
頷くと、ボクも浩樹も義兄さんの探す場所へとついていく。
更地になってしまった真人の家。
そして真人の家がそこだったら、
ボクの住んでた家もこの近くにある。
立ち止まって視線を向けると、
崩れかけの懐かしい建物が今も姿を見せる。
「瞳矢?」
そのまま言葉を失くして立ち尽くしてしまったボクに
義兄さんが慌てて声をかける。
「瞳矢、どうしたんだよ」
浩樹の声が聞こえた後、ボクはゆっくりと言葉を返す。
「あの家、この街にいた時にボクが住んでた場所なんだ。
あの更地になってるところは、真人の家があった」
「それだったら、お前……アイツとめちゃくちゃ近いじゃん」
「近いよ。
ボクと真人は、幼馴染だけど……感覚的には兄弟だったから。
真人の小母さんのピアノでボクは、ピアノの楽しさを知った。
真人のお母さんはボクにとっても先生だから。
でもその先生も……あの震災で、あの場所で亡くなっちゃった。
そんなこと考えてたら、悲しくなっちゃって動けなかった。
真人……もしこの景色見てたら、どんなふうに思っただろ。
それを考えるだけで苦しくなるんだ」