その手には…
 バタンッ。

まるで少女の呟きが聞こえていたかの
ように部屋の扉が大きく開かれた。

「…ハァ、ハァ」

そこには肩で大きく
息をしている青年が立っていた。

「わ…悪い、遅くなった。雨、降ってきてさ。急だったから傘取りに帰ったんだ」

少女は先ほどよりもキツク
ぬいぐるみの頭を絞めていて、その手は
グーをつくっている。

「知ってる」

「はっ⁉マジかよ、お前知ってたのか」

「…」

「おーい、聞こえてる?」

「…」

「もしもーし」

「おそい」

「ん?」

「おそい」

少女はぬいぐるみを抱きしめつつ
同じ言葉を再び呟いた。

「あぁー、ごめん…。
でも、雨にあたって風邪引いたりしたら
困るだろ。そんな服だしさ」

「別に」

そう言って少女は顔を背ける。
もう、手はグーではない。

「行こうぜ」

まるでその言葉を待っていたというように
少女はぬいぐるみを解放した。

「ほらよ」

少女の細い肩に白いパーカが掛けられた。

「…ありがと」

そう呟いた少女の頬はほんのりと
色づいている。
手には、温もりある人のが握られていた。
そして、少女は1度も振り返ることなく
部屋を後にした。  

「待たせんな、バカ」

ツギハギだらけのぬいぐるみと小さな
ちいさな呟きを残して。
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