30分の待ち時間








こうしてあたしの初めてのマネージャー生活が始まったんだけど。




「だ、大丈夫?鈴ちゃん」


「大丈夫です……」




転んで、折角(せっかく)洗ったタオルを泥まみれにしたり。

皆さんに飲み物を聞いて買ってこようと思ったら、その日は丁度財布を自宅に置いてきたことを忘れて、買ってこれなかったこともあった。

その時はあたしが奢ろうと思っていたのに、結局皆さんが出すことになってしまった。

…あたしって、こんなにも気が利かない女だったんだ。




あたしに対して葉月は、気が利く。

あたしが泥まみれにしたタオルを家で洗ってアイロンしてきたり、代わりのタオルを用意していたり。

サプライズで皆にジュースを持ってきてくれた先輩と一緒に、ジュースを持ってきたり。

あたしが1週間かかってやっと覚えた20人の名前も、2日で覚えてしまったり。

その上あたしがマネージャー生活が忙しくて下がった成績も、逆に上がっていたり。

あたしが厳しいサッカー部顧問の先生から怒られることも少なくなかった。




「鈴!
帰りにご飯食べない?」


「あっ、ごめん。
今日親に早く帰って来いって言われているんだ」



本当は早く帰って来いなんて言われていないけど。

父親は単身赴任中でいないし、母親は帰るのいつも7時過ぎだから。

だけど、あたしはなるべく自然にを装い、葉月を避けていた。




やっぱり正解だったな。

あたしがあの時葉月に、海先輩が好きだって言わなくて。



無理だもん。

あたしじゃ、無理だもん―――





あたしが最寄駅から自宅まで、

泣きながら帰ったことも少なくなかった。







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