30分の待ち時間
間違いない、透子だ。
大きな力強い瞳。
…変わっていないな。
「神庭(かんば)透子です。
短い間ですが、よろしくお願いします」
透子の笑顔に、男子も女子も騒ぎだす。
透子は美人だから、きっと良い印象を抱かれただろう。
「じゃあ、皆に自己紹介してもらっても良いかな?
簡単に名前や好きな教科とかで良いから。
わたしは数学の担当なんだけど、数学で苦手な所や得意な所とかも教えてほしいな」
端の席から始まり、俺は1番最後だった。
「じゃあ最後だね」
透子の言葉に、俺は立ち上がった。
透子が持つ紙には、生徒の名前は書かれていない。
きっと俺だって、気がついていない。
「……光出(みついで)、太一です。
数学は、全体的に苦手です…」
俺は透子の顔をガン見しながら言った。
俺の名前を覚えていたのなら、反応すると思っていたから。
だけど透子は、俺の名前に何の反応もなかった。
俺は何も言わないで、席に座った。