30分の待ち時間
すると透子は笑みを消し、視線を落とした。
「……覚えているよ。
名前聞いて、太一くんだってすぐにわかった」
「じゃあ何で…!?」
俺のこと、今知らないフリしたんだよ。
「だってわたしは、教師だよ?
教師は、たった1人の生徒だけを見つめていちゃいけないの」
「……ッ」
「じゃあね、光出くん。
わたしまだ、仕事が残っているの」
俺は背を向け歩いて行く透子の腕を掴んだ。
誰に見られていようが関係ない。
「透子!」
「いやだっ、太一くん離して!」
「俺、ずっと透子のことが好きだった」
振り向いた透子の目を見ながら言うと、透子は涙を流した。
「5年前、透子がお姉さんとの話を聞かせてくれたあの日から。
俺は透子が好きだったんだ。
透子が引っ越して、哀しかったし寂しかった。
あの頃には好きだったから。
久しぶりに会ったと思ったら、避けられて。
何度話しかけても、俺のことを生徒として見て。
俺、透子のことが――――ッ!」
「待って太一くんっ!」