30分の待ち時間
「どこでだっけ…?」
「お願い葉月!思い出して!」
パンッと両手を合わせて祈るように目を瞑っていると。
「葉月ちゃん」
聞き覚えのある声がした。
目を開けて、葉月と一緒に廊下を見る。
「海先輩っ…!」
廊下に立っているのは、海先輩だった。
前は「岩清水さん」だったのに、今は「葉月ちゃん」って呼んでいるんだね。
…幸せになってねおふたりさん。
雷一さんと、透子さんのように。
「鈴も一緒に行こう!」
「は、葉月!?」
葉月に引っ張られて廊下へ向かう。
そして教室がある方とは反対の、窓際の廊下に立った。
「葉月ちゃん、これありがとう」
「いえっ…気にしないでください!」
海先輩が葉月に渡していたのは、国語辞書だった。
どうやら今日提出の宿題に必要だったみたいなんだけど、海先輩が家に忘れてしまったようで。
今日の授業で使うから持ってきていた葉月と朝、校門近くで会って、借りたそうなのだ。
海先輩って意外にも、抜けている部分があるんだね。
無口でクールそうだから、完璧そうに見えるのに。