30分の待ち時間
太一の突然の告白に、廊下で話していた生徒たちが一斉に話すのを止めた。
海先輩と葉月も、あたしたちを見ているのが視線でわかる。
…視線ってかなり痛いって聞いたことあるけど、本当なんだ。
「……太一。
あたしも、太一が好き…」
あたしはあの30分間で
恋に落ちたんだ。
「…本当はあたし、恋しても良いのかなって思った。
失恋があんなに辛いなんて思わなかったから。
こんなに辛いのなら、恋なんてしたくなかったって、本気で思ってた」
「わかるよ、その気持ち。…痛いほどね…」
あたしたちはお互い辛い恋をしていた。
好きだって思っていた人が、親友や兄など、身近な人物の恋人になってしまった。
「だけどあたしは、太一に出会って、もう1度恋がしたいって思えるようになった。
恋していた時、凄く楽しかったんだ。
相手を見ているだけでドキドキして、自分で自分がわからなくなって。
本気で自分の取扱説明書が欲しいって願ったほど。
もう1度あたしは、あの時の嬉しくて楽しくて、だけどほんの少し苦い気持ちを味わいたいの。
…それが今日の朝、味わったんだ。
太一を思うだけで……」
「スズ……」
「太一。
あたしは太一と一緒にいたい。
昨日は言えなかった、“また明日”を言いたい」
太一はニッコリ笑って、あたしの頭を撫でた。
あの眩しい夕焼けを見た砂浜で、泣いてしまったあたしの頭を撫でたみたいに。