30分の待ち時間








「あのおばあさん、駆け落ち好きだな」


「あー、確かに。
駆け落ちってよく言われる気がする」


「あのおばあさんがもしかして、駆け落ちしてきたとか?」


「まっさかー!」




太一と並んで笑っていると、おばあさんがみかんを持ってきた。

外の皮だけ剥いて食べると、やっぱり美味しい!

みかんの甘い果汁が口の中いっぱいに広がった。




「この間は恋人じゃなかったん?」


「そうですよー!
この間はたまたま出会ったんです」


「たまたま出会った人と?
…最近の子は変わっているの」


「多分あたしたちだけだと思います。
今は見知らぬ人に会ったら逃げなさいって言われるほどですし」


「物騒な世の中になったの~」




おばあさんと会話しているのはあたしだけ。

太一は黙々とみかんを食べている。




「そういえばスズ」


「ん?」


「昨日俺ら、電車乗ったじゃん。
東堂ホテル行くからって」


「うん。
たまたま30分経っていたみたいだからね」


「違うんだそれ。
あの時、30分なんて経っていなかったんだ」


「は?」


「あの時、1時間経っていたんだよ。
1時間もこの駅付近でウロウロしていたってこと」






1時間!?

30分の間だけだと思っていたのに!?

…30分も過ぎているじゃないかよ。







< 67 / 69 >

この作品をシェア

pagetop