30分の待ち時間
「あのおばあさん、駆け落ち好きだな」
「あー、確かに。
駆け落ちってよく言われる気がする」
「あのおばあさんがもしかして、駆け落ちしてきたとか?」
「まっさかー!」
太一と並んで笑っていると、おばあさんがみかんを持ってきた。
外の皮だけ剥いて食べると、やっぱり美味しい!
みかんの甘い果汁が口の中いっぱいに広がった。
「この間は恋人じゃなかったん?」
「そうですよー!
この間はたまたま出会ったんです」
「たまたま出会った人と?
…最近の子は変わっているの」
「多分あたしたちだけだと思います。
今は見知らぬ人に会ったら逃げなさいって言われるほどですし」
「物騒な世の中になったの~」
おばあさんと会話しているのはあたしだけ。
太一は黙々とみかんを食べている。
「そういえばスズ」
「ん?」
「昨日俺ら、電車乗ったじゃん。
東堂ホテル行くからって」
「うん。
たまたま30分経っていたみたいだからね」
「違うんだそれ。
あの時、30分なんて経っていなかったんだ」
「は?」
「あの時、1時間経っていたんだよ。
1時間もこの駅付近でウロウロしていたってこと」
1時間!?
30分の間だけだと思っていたのに!?
…30分も過ぎているじゃないかよ。