30分の待ち時間






クルリ、と彼が振り向く。

黒い帽子から出ている明るい茶色の髪の毛が、振り向くのと同時に揺れた。




「電車待ち?」


「そうなんです」


「敬語使わなくて良いよ。
むしろ使われた方が気にするから」


「じゃあ、タメ口で。
そう、30分後来る電車を待っているの」


「偶然!
俺も待っているんだよね、電車」


「そうなの?」


「そう。
気が付いたら、降りるべきはずの駅通り過ぎていて、急いで降りたらこんな田舎の駅でさ。

何もすることないから、こうしてベンチに寝っ転がっていたってワケ」


「あたしも同じ。
降りるべき駅を通り過ぎて、駅名も見ないで降りたら、この駅だったの。

終点とか大きな駅とかに降りていれば、30分も待つことなかったのに」


「なぁ」


「何?」


「名前は?
名字はいらない、下の名前だけ教えて」





突然聞かれ、一瞬驚くも、あたしは答えた。

暇だと思っていた中話しかけてもらえて、良い暇潰し相手になると思ったから。




「鈴(すず)です。
揺らすとチリンッて音のする、あの鈴のスズです」






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