好きで、言えなくて。でも、好きで。
「記憶にない…?」


「はい。だから、変なこと言ってないかと思って。ああ、でも、相談の内容は何となく分かってました。ナエちゃんのことですよね。」



ナエちゃんとは、細脇苗込(ササワキ ナエコ)のことだ。


賭狗膳の元妻で、同期の棟郷とも面識がある。



「相談されてたとしても覚えてないんで、今度、素面の時にと。」



苗込が賭狗膳と別れる前から、棟郷に何かしら誘われているのを見ていた。


だから威叉奈は、棟郷が苗込に恋心を抱いている、自分に相談事があるならそれしかないと思ったのだ。



「すいません、私といるのも嫌なのは知ってますけど、そういうのに私情を挟むつもりはないんで心配しなくてもちゃんと考えますから。まぁ、思い付くのは食事とかのセッティングぐらいですけど。」



今までの棟郷の言動から、威叉奈は嫌われていると感じ取っていた。


だが、それとこれとは別問題。


何より、父親代わりの賭狗膳と同じく、2人が別れても母親代わりの大切な苗込が関係しているのだ。



だから、苗込が幸せになるならと思った。


それに、棟郷に不幸になって欲しいとも思っていないから。
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