好きで、言えなくて。でも、好きで。
「威叉奈に何した?」



怒りを込めた低い声で、賭狗膳は問う。


理由は分からないが、棟郷が威叉奈に何かしたと直感したからだ。



「いや、俺は……」


「何したかって聞いてんだよ!棟郷っ!!」



「…っ……!」



怒りに任せ棟郷の胸ぐらを掴んで、そのまま壁に押し付ける。



「賭狗膳さんっ!マズいですから!手を離して下さい!」



今までとは怒り方が違うと、賭狗膳の行動に危険を感じた早乙女は止めに入る。



「………。威叉奈を泣かせる奴はどこの誰だろうと、俺が許さねぇ。」



低くそう呟くと、賭狗膳は手を離し、威叉奈の走って行った方向へ足を向ける。


早乙女も一礼して賭狗膳に続き、2人はいなくなった。



「……っ…はぁー……」



棟郷はズルズルと力が抜けたように、その場に座り込む。



賭狗膳があんなに怒ったのを見たのは初めてだ。


犯人や暴力団と対峙している時でさえ感じない強い怒り。


賭狗膳がどれだけ威叉奈のことを大切にしているか身を持って痛感した。



そしてあんなに近くにいたにも関わらず、威叉奈が泣いてたことに気付けなかった自分がとても情けなかった。
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