好きで、言えなくて。でも、好きで。
「ご馳走様。」


「はーい、お粗末様。」



苗込が張り切った為かなりの量だったが、仕事帰りの賭狗膳とお腹が空いていたのだろう威叉奈とでほぼ食べてしまった。



「美味かったろ?苗込の料理は世界一だからな。」


「あらやだ。褒めたってなんにも出ないわよ、トクさん。」



満更でもないらしい。

苗込の顔は嬉しそうだ。



「なんで、トクさんなんだ?」


「ん?ああ、呼び方?」



夫婦なのに、さん付けなのが気になって、威叉奈はここに来て初めて口を開く。



「この人、下の名前が梅夫っていうんだけどね、そう呼ばれるのが嫌なんだって。小さい頃、梅干しって、からかわれたから。」


「苗込!余計なこと、言うんじゃねぇよ。」



背が低く、丸顔だったのも相まって、あだ名が梅干しだった。

それが子供心に嫌で嫌で仕方がなかったのだ。



「梅干し……。確かに変な名前。」


「!……やっと笑ったな。」



余程可笑しかったのか、威叉奈は賭狗膳と出会ってから初めて笑った。
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