好きで、言えなくて。でも、好きで。
「なんなんですか?こんなとこまで。」



棟郷に引っ張られ威叉奈がたどり着いたのは、人気のない屋上だった。


連れて来られた意味が分からない威叉奈は、ムスッとした表情と態度を隠すこともなく尋ねる。



「今夜……時間あるか?」


「はい?」



「…相談があるんだ。」



棟郷が言いにくそうに切り出したのは、威叉奈の今夜の予定の有無のようだ。



「…………、別に何もないですけど。」



何故自分に?と一瞬思ったが、思い当たる節があったので、威叉奈はややあって答える。



「そうか。じゃあ、後で迎えに行く。こんなとこまで悪かったな、話はそれだけだ。」



棟郷はそう言うと、足早に屋上を去っていった。



「(トクさんに聞かれたくなくても、屋上にまで来なくったって……)」



5分ほどかけて来た屋上で、話した時間は2,3分。



同期だが、仲の良くない賭狗膳に聞かれたくないにしても、屋上は来すぎなんじゃないかと威叉奈は不思議に思うのだった。
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