好きで、言えなくて。でも、好きで。
「総長だって、俺が喧嘩強いから欲しいだけ。次の総長を任せられるのは、族の中で誰よりも強い俺だけだって。」



次期総長の座を、いとも簡単に譲られた威叉奈のことが気に入らなかったらしい。


リンチの原因はこれのようだ。



「んなもん、俺じゃなくてもいいじゃねぇか。俺より強い奴なんていくらでもいるんだ。」



俺じゃなくたって……。



独り言の様に小さく呟いた言葉は、賭狗膳と苗込にはしっかりと届いていた。



「威叉奈ちゃん、今何年生?」


「……3年生。」



今まで口を挟まなかった苗込が突然話し掛けたので、威叉奈は答えるのがワンテンポ遅れる。



「高校は考えてるの?行きたいとことかあるの?」



今の時代、大半は高校へ進学する。

もうすぐそんなことを考えなければならない時期。候補はいくらかあるはずだ。



「いかねぇ。やりたいこともねぇし、卒業したら家出ていかなきゃなんねぇから。そういう約束だし。」



義務教育が終われば放り出すつもりらしい。


まともに授業も受けたことがない威叉奈を。

保護者の義務を果たさないまま。
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