好きで、言えなくて。でも、好きで。
「椒鰲、俺は……ぅ…っ!?」



急に、強烈な目眩が威叉奈を襲う。


ガシャンと音を立て、すぐ横のフェンスに倒れ込むように身体を預ける。



「っ…は、……お、まえ……なに、を…」



「今の時代は便利になったぜ。色んなもんが、簡単に手に入るんだからよぉ。」



荒い息を繰り返し、フェンスを掴んで威叉奈は意識を保とうとするが、椒鰲の姿は歪んでいる。



「心配するな。ただの睡眠薬だ。まあ、量は多めだけど、死にゃしねーよ。」


「な…にが、目的、だ…?」



「目的、ねぇ?何だろうなぁ~?」



ニヤリと含み笑いを浮かべながら、椒鰲は近付いてくる。

逃げようにも足の力が入らず、後退りも意味をなさない。



「っ……」



小石に躓き、崩れ落ちるように尻餅を付いてしまう。

フェンスを掴む手にも、力が入らない。



「結構な量入れたのになぁ。さすが威叉奈ってか。」



ファミレスでは人目があるからと油断していた。


家まで調べあげたからには何かしてくるとは思っていたが、まさか薬を盛ってくるなどとは。


椒鰲の不審な行動に、威叉奈は気付けなかった。
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