好きで、言えなくて。でも、好きで。
「そうだ…。威叉奈は威叉奈なんだよ。昔っから変わらねぇ。変わる訳ねぇんだ。」



椒鰲はしゃがみ込み、威叉奈と目線を合わせる。



「その目も、話し方も、雰囲気も。何もかも。ぜんぶ、ゼンブ、全部。」



「っ……!!」



椒鰲は、威叉奈の頬を撫でる。


愛おしそうに。



しかし、威叉奈は身体を強ばらせるだけ。


そこにある感情を、何故か受け入れることが出来ない。



「俺の知ってる威叉奈だ。俺だけが威叉奈を知ってる。威叉奈を理解出来るのは、俺だけなんだよ。」



朦朧とする意識の中で、鬼気迫る口振りで話す椒鰲に殺気に似た何かを感じた。


しかし、口を開けど声が出ず反論すら言えない。



「お前は、俺がいねぇと、な……。」



弱い力でも抱き寄せられた威叉奈に、もう抵抗する力など残っていなかった。



力を振り絞り引き剥がそうと一旦上げた手は、意識と共に力なく落ちてしまった。



「ずいぶん長くかかっちまったが、これで……」



椒鰲は乗ってきたバイクに威叉奈を乗せる。


威叉奈の意識を失った顔を見て満足そうに微笑むと、椒鰲は走り去っていった。
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