好きで、言えなくて。でも、好きで。
「な、泣かせた覚えはない。泣いてもいなかった。ただ、捜査だと聞いたから、気を付けてと言っただけだ…。」



多少省略してしまったが、間違ってはいない。


あんな自分の告白を、賭狗膳に言える訳もないのだが。



「ならいいがな。」



あまり納得していないようだったが、手は離してくれた。



「吹蜂、いないのか?だが、子供じゃあるまいし、お前にいちいち報告しないだろ。」



「朝から姿が見えないんだ。課長達も知らねぇって言うし。携帯出ねぇから、念のために苗込に部屋を見に行ってもらったがいなかった。」



家出人の捜索か。


乱れたスーツを直しながら棟郷は思う。



「仕事以外でどっか行く時は、いつも言ってくし。あいつが俺に黙っていなくなる筈がねぇ。ましてや苗込にまで。」



珍しく狼狽している賭狗膳。



いつも。


どこかで聞いたフレーズに、そんなことはないと思っていても棟郷の顔が少し歪む。



「単に言うのを忘れてただけだろ。少しは子離れしろ。」



気持ちを誤魔化す様に、書類にペンを走らせる。
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