好きで、言えなくて。でも、好きで。
「っ、くっそ……」



ここ何日、経過したかは分からないが、威叉奈は意識がある時にロッジの中を見回していた。



椒鰲がいるのは食事の時だけで、後はどこにいるか不明だ。


バイクで走る音が聞こえてくるので、近くにはいないようだが。



その中で見付けた。

倒れている場所から、わりと近くに落ちている硝子の破片に。


近く、といっても手の届くまでにかなりの時間を要した。


食事など生理的欲求は満たされているものの、食事の中に薬が含まれている為、朦朧とする意識と体のダルさは抜けることはなかったからだ。



やっと届いた硝子の破片を握り締め、手の縄を切ろうとするがなかなか上手くいかない。


椒鰲が戻ってくる前にと、気持ちだけが焦っていた。



「…………!!」



いつものように、椒鰲はお弁当を持ってロッジを訪れた。



しかし、目の前の状況に思わずドサッとコンビニ袋が手から落ちる。



「しくったっ………!」



そう吐き捨てると、椒鰲はロッジから飛び出した。


ロッジには、切られた縄の残骸と窓に向かって歩いた時に付いた血の跡だけが残され、そこには誰もいなかった。
< 53 / 92 >

この作品をシェア

pagetop