好きで、言えなくて。でも、好きで。
「はあ、はあ……どっちだ……」



ロッジから逃げ出した威叉奈は、森の中で彷徨っている。


どの方向を見ても木々ばかりで、高低差も少なく下っているのか登っているのかさえ、威叉奈は判断出来なくなっていた。



胸ポケットに入ったままの携帯は辛うじて電池は残っていたものの、圏外でその意味をなさない。


待ち受けに表示された日付は、拉致されてから4日経っていた。



「お、早乙女!いたか?」


「賭狗膳さん!いません。ロッジの中も人気が全く…」


「こっちもだ。棟郷は東か?」


「はい。」



早乙女が捜した西は、整備はされているものの、何年も人の出入りがないように見えた。


賭狗膳が捜した南も同じようだったが正面の道にあるので、幾分かは使った形跡があった。



「とりあえず棟郷と合流だ。東は入口見ても出入りが少なそうだったしな。かなり荒れてそうだから、棟郷一人じゃ時間くいそうだ。」


「そうですね。」



隠れるならロッジだろうと、ロッジも道もない入口とは反対側は捜索範囲から省いて、棟郷と合流しようと賭狗膳と早乙女は東に向かった。
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