好きで、言えなくて。でも、好きで。
「あれは……!」



棟郷は、目の前に現れたロッジの前に、見覚えのあるバイクを見付けた。



「ここか…?」



気配を消し、窺うように入口横の割れた窓から覗き見るが、人がいる気配はしなかった。



…………が。



「これは……っくそ!」



目の端に捉えた部屋の奥には、切れた縄の残骸とその周辺に点々とする血の跡。



棟郷は思わず走り出した。



「はぁ、はぁ……は…ぁ…」



生い茂る木々に手を付き、途中で見付けた太い枝を杖がわりにしながら、威叉奈はとにかくロッジから離れようと足を動かしていた。



椒鰲がいつ戻ってくるかも、ロッジの状況に気付くかも分からない。


薬が効いている状態では、椒鰲の相手どころか麓まで辿り着けるかも不明だ。



しかし、体を動かしたせいで薬が良く回り、威叉奈の状態はロッジにいた時より悪化している。



「いぃーさぁーなぁあぁぁっ!!!」


「!!」



後ろで響いた、聞き慣れた声の怒号。



「見付けた。」



振り向いた威叉奈の目に映る椒鰲。


無表情で、しかし口は弧を描いていた。
< 56 / 92 >

この作品をシェア

pagetop