好きで、言えなくて。でも、好きで。
「ええーよっぱらってませんよー。せいじつなーひととかいてぇーま・こ・と・しゃん!」



確かに棟郷の名前は、誠実の誠に人で誠人だが……



「それは今関係ないだろう……。」



酔っ払いの言動は支離滅裂だ。



「かんけいありますよーだってーわたし、まことしゃんのことすきだもーん。」



「………………は?」



棟郷は耳を疑った。


今、自分のことを好きと言わなかったか、と。



「な、何を言っている。冗談はよせ。これだから酔っ払いは……」


「むぅー。じょーだんじゃないですよー」



子供の様に両頬をプクッと膨らませ、威叉奈はむくれる。



「ずっと、ずっと、ずぅーとすきだもん。さいしょは、こわいなぁとおもったけどさぁ―。でも、とーごーさん、ほんとはやさしーって、しってるも―ん。」



「お、おい……ちょ……吹蜂っ……」



言いながら這うようにして馬乗りになった威叉奈は、にいっと笑う。



「何してんだ。吹蜂、降りろ。」



意味が分からない行動に狼狽えながらも、とにかく退いてもらおうとするがこういう時の酔っ払いの力は強くびくともしない。
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