好きで、言えなくて。でも、好きで。
「…………すまん。」


「あ?……無茶したことか?仕方がねぇだろ、あの状況じゃ。連絡取ろうにも、携帯は圏外だったしな。」



「いや、それもなんだが……」



怪我して迷惑をかけたことを謝られているものだと思ったが、それとはまた違うらしい。



「…吹蜂を泣かせてしまった……」



意識が無くなる前、滅多に呼んではくれない自分の名を、必死に叫んでくれていた威叉奈。

その目から涙が流れているように、棟郷には見えた。



「………………。」



椒鰲に対する言葉が、自分にも向けられていると感じたようだ。



「…不可抗力、だろ。こんな仕事やってりゃ。泣かせる、の意味が違う。そんな屁理屈こねるほど、性格ねじ曲がってねぇよ。」


「賭狗膳……。」



賭狗膳は思ったより、嫌な奴じゃないかもしれない。

棟郷はそう思う。



「まっ、ゆっくり休め。貴重な休みだろ?管理官様は、俺達と違ってお忙しいからな。」


「久しく聞いていなかった嫌味をどうもありがとう。」



前言撤回だ。



棟郷はそう思った。
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