好きで、言えなくて。でも、好きで。
「あ、あれ?トクさんとアオちゃんは……」


「課長に呼び戻された。細脇も来たんだぞ?花持ってきてくれたのに、花瓶が無かったからそのままだ。」


「あ……そうでした。でも、水は入れてきたんで挿しときます。」



我に返った威叉奈が花のない花瓶にとりあえず水を入れてきて戻ると、病室には棟郷しかいなかった。



賭狗膳と早乙女が呼び戻されたキッカケで、苗込も帰路についた。


病室を出ていった威叉奈の勢いで、大丈夫だと判断したようだ。



「結構上手いな。」


「柄にもなくてすみませんね。」



「褒めたんだがな。」



花の活け方が気に入ったらしい。

そう言いながら棟郷は満足そうに笑う。



「秩浦椒鰲のこと聞いた。とんだ奴もいたもんだな。逆恨みもいいとこだ。」



「………。すみません。全部私が悪いんです。昔のことも、椒鰲のことも、今回のことも。大体、私が警察官なんて……」



ベッドの右脇にあるチェストで花を活けてる威叉奈は斜めを向いていて、棟郷には表情が見えない。


しかし、その声は後悔というか自責の念か、沈んで聞こえた。
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