好きで、言えなくて。でも、好きで。
「俺が言ったのは、そういうことじゃない。秩浦椒鰲が逆恨みしたのは、吹蜂のせいじゃなくて向こうが勝手に思い込んだだけだろ?族のことだって、警察官になることだって、自分で決めてケジメ付けて、そうしてきたんだろ?」



棟郷は、威叉奈の過去に関してかなり詳しく知っている。


それは、噂で聞いたものもあるが、賭狗膳が同期であり管理職の地位にいた棟郷に本当の威叉奈を知っていてもらっておいた方が何かと都合がいいと判断したからだった。



賭狗膳は嫌がったが、離婚する前は苗込と4人で食事にも行っている。


副産物として、苗込との仲を誤解する原因の一つにもなってしまったのだが。



「決めたとかケジメとか、そんなもん、当たり前じゃないですか。それに、補導止まりでしたけど、駁兜にいた頃にしてたことは完全に犯罪です。それを族内でケジメ付けたって、意味無いですから。」



賭狗膳と苗込の思いに報いたいのだって、結局のところ自己満足に過ぎない。



「最初っから、求めちゃいけなかったんですよ。何も無い私が、欲しい、なんて……。花出来たんで、帰ります。」



威叉奈は棟郷に背を向けたまま、ドアに向かう。
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