好きで、言えなくて。でも、好きで。
「………離して下さい。」



威叉奈は棟郷に左腕を掴まれ、動きを止めた。



怪我人なので振りほどくことも出来ず、抗議の声をあげるだけにとどめる。



「離さない。離したら、帰ってしまうだろ。そんな顔の吹蜂を帰す訳にはいかない。」


「どんな顔ですか。見えてないじゃないですか。」



「見える。そのくらい声で分かる。結構素直なんだって、最近分かった。」



「どういう意味ですか…。」



掴まれている腕から、棟郷の体温が伝わってくる。


怪我人とは思えないほどの力で、でも、痛くはなくて。



「何も無いわけないだろ。こんなにも、俺を振り回しやがって。」



「酔っ払って、迷惑なことをしたことは謝ります。でも、私には…」


「迷惑などではない。嬉しかったと言ったろう。俺が言えた義理ではないが、過去を償おうとしていることも、今一生懸命仕事をしていることも知ってる。一課の連中が吹蜂を嫌っているんじゃなくて、ソタイとの問題だ。吹蜂個人が原因じゃない。」



実際問題、一課がソタイを敵視しているのは、手柄を争う立場にあるからだった。

威叉奈が問題ではないのだ。
< 71 / 92 >

この作品をシェア

pagetop