好きで、言えなくて。でも、好きで。
しかし、いつまでもこの状態はさすがにマズイ。


面会時間終了にはまだ時間があるが、棟郷にも食事や怪我の為に色々しなければならないこともある。



威叉奈に至っては、賭狗膳と早乙女が呼び戻されたのだ。

椒鰲のこともあるし、早く戻らないといけないのは確かなのだが。



「(どうしたらいいんだよ…)」



さっきまで言えたのに、帰る、の一言が言えない。


自分の言動によって体が熱く、きっと顔は赤くなっているに違いないと自覚できるほどだ。



それでも。



「棟郷さん…ぇっと、あの…」


「吹蜂、無理しなくていい。ゆっくりで…」


「べ、別に無理なんか……してません。」



覚悟を決めて、口を開いたはずなのに、上手く言葉にならない。



「その間が無理なんだ。まあ、俺にとっては、名前を呼んで貰えてかなり満足だがな。」


「なま……………っ!!!??」



気持ちを勘付かれない様に、役職名でと気を付けていたのに。

気が緩んだらしい。

心の中での呼び方が、無意識に口から出ていたようだ。
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