好きで、言えなくて。でも、好きで。
「(はっず……素面でも、何やってんだよ…俺…)」



無自覚ならば、素面でも酔っ払っていても結局同じらしい。



しかも、満足と言いながら呼び方が変わった理由に察しがついているのか、棟郷が小さく笑っているのが分かる。



悔しくなって、ちらりと棟郷を見ると。



「顔、赤い……」



「なっ……!下向いてるんじゃなかったのか……!」



見上げた棟郷の顔は、見たことがないぐらい赤く染まって。



「ふ、ふふ……あはははは……!」


「わ、笑うな…」



吹き出すようにして笑っている威叉奈に、油断していた棟郷は格好をつけたいのに、もうつけられない。



「す、すみま、せん…。バカに、したわけ…じゃなくて。」



そう言いながらも、笑いを堪えているのか声が震えている。

しかも、涙目だ。



棟郷は、先程とは違う意味で抱き締めたくなった。


もちろん、自分の顔を隠す目的で。



「棟郷さんも一緒なんだなと思っただけですよ。」


「い、一緒…?」



ひとしきり笑って気が済んだのか、もう声は元通りだ。
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