好きで、言えなくて。でも、好きで。
今のところ、一緒といえば、怪我をしているところと、顔が赤くなっているところぐらいか。

それの何が、そんなに笑う要素があるのか。



「だって棟郷さん、私といる時、いつも余裕な感じじゃないですか。」


「余裕って、おま……。余裕なわけあるか……」



振り回されたと言ったのを、聞いていなかったのだろうか。



「何かいつも私ばっかり余裕なくて。さっきだって、私の一世一代のをさらっと。」



切なげだったのも、不安げだったのも、もしかしたらテクニックの一つなんじゃないか。


自分には経験のないことでも、棟郷ならばあると思ってしまうから。



「大人の余裕……みたいな?棟郷さんあんま表情変わんないから。私ばっか必死で取り繕ってる感じがして。だから、何か悔しかったんです!」



拗ねたのか最後は自暴自棄気味だ。



「だけど、そんな顔見たら、そうじゃないんだなって。棟郷さんも、私と一緒なんだなと思って安心したんです。」



そう、嬉しそうに笑う威叉奈。



だが、そんな威叉奈の先程から目まぐるしく変わる表情に一喜一憂しているのはこっちの方だ。

と棟郷は言いたくなった。
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